どうして。
どうして、現実はこうも残酷なのだろう。
揺れるバスの中で、私は必至に歯を食いしばっていた。
そうでもしていなければ、今にも決壊してしまいそうだった。
いっそ、そのままばらばらになって、跡形もなくなってしまえばいい。
そうしたら、今日の取り返しのつかない失態も、帳消しにしてしまえるのではないか。
――妹に、ならない?
天使の囁きが、まだ耳に残っている。
耳の奥にこびりついて、わんわんと不愉快な残響を揺らめかせている。
なれるはずが、ない。
私が。
この、私が。
天使に近づけるはずがない。
こちらにおいでと、呼び寄せてもらえる資格なんかないのだから。
どうして。
どうして、そんなに優しい言葉をかけるのですか。
本当は、そう詰りたかった。
理解できなかった。
出会ったときからずっと、あの人はずっと、私にとっては、まるで異世界の人間で。
どうして。
どうして、私を妹になんか。
妹にしたいだなんて、言ったのだろう。あの人は。
どうして、よりによって、あの人だったのだろう。
あんな話を聞かせて、私は一体何がしたかったのだろう。
あの人に、一体何を求めていたのだろう。
何も知らないあの人に。
いまだ、輝き続ける純白の白地図を握り締めている人に。
分からない。
分からない。あの人が。自分自身が。
私は。
私は――。
ふと顔を上げれば、バスは駅前のロータリーに滑り込もうとしていた。
このバスは、ここが終点。
では、私は?
私の終点は何処なのだろう。
私は何処にたどり着くのだろう。
バスの運転手に定期を見せて、バスを降りる。
見知ったはずの場所なのに、毎日のように通る場所なのに、心もとなくて、歩き出すのが怖かった。
きらびやかなイルミネーションは、少しも私の心を浮き立たせはしない。
宝石箱をひっくり返したような街。
楽しそうな笑い声、幸せそうな笑顔。
私は、たった一人で、壁の向こうからその光景を眺めている。
一枚の絵画に入り込めない私。
私は、観客だった。
観客でしか、なかった。
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突発的に書きたくなって、瞳子を。
祐巳と別れた後のつもりです。
やってしまった感のある小話になってしまったような(汗)
頑張れ、瞳子。
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