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2024/04/29 06:44 |
オーディエンス




どうして。

どうして、現実はこうも残酷なのだろう。





揺れるバスの中で、私は必至に歯を食いしばっていた。

そうでもしていなければ、今にも決壊してしまいそうだった。

いっそ、そのままばらばらになって、跡形もなくなってしまえばいい。

そうしたら、今日の取り返しのつかない失態も、帳消しにしてしまえるのではないか。





――妹に、ならない?





天使の囁きが、まだ耳に残っている。

耳の奥にこびりついて、わんわんと不愉快な残響を揺らめかせている。





なれるはずが、ない。





私が。

この、私が。

天使に近づけるはずがない。

こちらにおいでと、呼び寄せてもらえる資格なんかないのだから。





どうして。





どうして、そんなに優しい言葉をかけるのですか。

本当は、そう詰りたかった。

理解できなかった。

出会ったときからずっと、あの人はずっと、私にとっては、まるで異世界の人間で。





どうして。





どうして、私を妹になんか。

妹にしたいだなんて、言ったのだろう。あの人は。

どうして、よりによって、あの人だったのだろう。

あんな話を聞かせて、私は一体何がしたかったのだろう。

あの人に、一体何を求めていたのだろう。

何も知らないあの人に。

いまだ、輝き続ける純白の白地図を握り締めている人に。





分からない。





分からない。あの人が。自分自身が。

私は。

私は――。







ふと顔を上げれば、バスは駅前のロータリーに滑り込もうとしていた。

このバスは、ここが終点。





では、私は?





私の終点は何処なのだろう。

私は何処にたどり着くのだろう。





バスの運転手に定期を見せて、バスを降りる。

見知ったはずの場所なのに、毎日のように通る場所なのに、心もとなくて、歩き出すのが怖かった。

きらびやかなイルミネーションは、少しも私の心を浮き立たせはしない。

宝石箱をひっくり返したような街。

楽しそうな笑い声、幸せそうな笑顔。

私は、たった一人で、壁の向こうからその光景を眺めている。

一枚の絵画に入り込めない私。

私は、観客だった。





観客でしか、なかった。










----------------



突発的に書きたくなって、瞳子を。

祐巳と別れた後のつもりです。

やってしまった感のある小話になってしまったような(汗)

頑張れ、瞳子。
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2006/01/12 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | SS
大分遅れたけれど。
ムウ・ラ・フラガ、お誕生日おめでとうー!!

別館にて何やらやらかしておりますが。

もう、この際一緒でもいいかと思いつつある響であります。

先達もいるしな・・・。



てなわけで。



今日はムウさん生誕を祝したSSです。

例によって、リリアンSEED。

BLは含んでおりませんが、女体化ありのGSEEDパラレルなので。

苦手な方は回避願います。



単に、HTMLにする気力がないだけというのはここだk(撃滅)






     ― ささやかなもの ―







「それにしても、大量ね」



テーブルの上に山積みにされたプレゼントの山を見て、キラが呟く。

うんざりとでも言いたげな口ぶり。

それに続いて、隣から溜息が発せられ、ムウは視線をそちらに動かした。

ムウの右隣。

眉間に皺を寄せながら、紅茶を飲んでいる少女。

彼女のそういう顔はよく見るが、強張ってしまわないのかと時々思う。

以前その疑問を口にしたら、物凄く嫌そうに顔を顰められた。

そういう表情も嫌いではないけれど。

笑えばいいのになといつも思う。

その方が可愛いのに、とか。



「持って帰るつもりなのか」



ムウの思考があらぬ方向に向かっていると、今度はカガリが口を開いた。

口調からして、大体予想はついていそうなのに。

わざわざ聞くというのは、何でだろう。



「勿論。まさか、皆に配るわけにもいかないし。

 ゴミ箱に突っ込んで帰るわけにもいかないでしょ」

「当然です」



冷たい声が、淡々とした口調で言葉を紡ぐ。

ティーカップの底がソーサにぶつかって、硬質な音を発生させた。

ムウのすぐ側から聞こえてきたそれらに、ムウは肩をすくめる。

なんだか、不穏な空気だ。

ちらと視線をめぐらせば、室内の面々はムウの右隣に注意を傾けているようだった。

そこにいるのは、理知的な眼差しと涼しげな容貌の主。

名を、ナタル・バジルールという。

別称は、黄薔薇のつぼみ。

遠慮なしに彼女に接する人間は、ムウの姉だった人やその親友が卒業した今、最早ムウ一人であるといっても良い。

気難しいところのある彼女のことを理解しているから、周囲は誰も踏み込まないのだ。

それは遠ざけているというものではなく、それが必要であるからというだけのこと。

先代の薔薇さま方は、だから特殊な部類の人たちなのだ。

そして、今やただ一人となった、特殊な部類の人間であるところのムウは。

何も言わず、ただ彼女の横顔を見ているだけだった。

美しい曲線を描く頬や。

濃い陰を落とす、長くて細い睫毛だとか。

紅をさしているかのように鮮やかな、薄い唇を。

まじまじと観察しているのであった。



「ちょっと、黄薔薇さま。

 あなた、話を聞いていて?」

「何、紅薔薇さま」

「こいつはなーんにも聞いてないぞ、キラ。

 自分の妹が美人だからって、見惚れているような人間だからな」



カガリの言葉に、ナタルがムウの方を向いた。

目を見開いて、頬を赤くして。

思わずにっこりと微笑むと、あからさまに顔を背けられた。

そんなに可愛い反応をされると、構いたくなってしまうのだけれど。



「ナタルに見惚れていたの?」

「ばれたか」

「なんだ、本当にそうだったのか」

「妹は可愛いものって、相場が決まってるじゃない。

 紅薔薇さまだって、しょっちゅう妹を構っていらっしゃる。

 白薔薇さまのところは、妹の方が積極的みたいだけれど」



紅と白の薔薇さまとそのつぼみたちが、揃って顔を赤くした。

なるほど。

心当たりはあるわけだ。

可笑しくて、笑いがこみ上げてくる。

抑えきれなくて、くくっと引き攣ったような声が漏れた。

睨まれるけれど気にしない。

そういう風にはできていないから。



「まぁ、それはともかく。

 貰うにしても、限度があるんじゃないかしらね。

 誰彼構わず貰ったりして」

「くれるって言うから貰っただけよ。

 彼女たちは私からの見返りを期待しているわけじゃないからね。

 渡して、そこで完結」

「そうかも知れないがな」

「そういうお二方だって、バースデーには随分と頂き物をしたようだけれど」

「量が違う」

「一つでも貰ったら、後は同じよ」



不毛な会話だな、とムウは思った。

今更、一人一人に返却して回るわけにもいかない。

第一全員の顔と名前を把握しているわけではないし。

二人も、そうしろと言いたいわけじゃないと思う。

ムウがプレゼントを貰ったことを、咎めたいわけでもないだろう。

では、何故?

そんなことをいちいち聞かずとも、何となくは気づいていた。

原因はムウの隣でただならぬ空気を漂わせている人。



「ま、ご心配なく。

 あとの始末はきちんとやるから」

「そう?それじゃ、今日はこの辺でお開きにしましょうか」

「異議なし。じゃぁ、あとのことは黄薔薇さまに任せて。

 ミリィ、フレイ、出るぞ」

「イザークとニコルも、帰りましょう」



戸惑う妹たちを押し出して、キラとカガリが部屋を出て行く。

テーブルの上のカップはそのまま。

「ごきげんよう」と慌しく挨拶を交わした後、ビスケット扉が閉められた。

残されたのは、黄薔薇の二人だけ。



「ナタル」



しんと静まり返った部屋の中に、妙にムウの声が響いた。

ナタルはびくりと肩を震わせる。

その肩に、そっと手を置いて。

立ち上がり、ムウは後ろを向いた。

椅子が音を立て、そしてまた静寂が訪れる。



「言いたいことがあるのなら、ちゃんと言って。

 どうも、私はキラやカガリとは違って、気配りに欠けるところがあるみたいだから」



自覚がないから厄介なのだろう。

そう思うけれど、気がついた時には、いつもことが済んでしまった後なのだ。

諦めているつもりはないけれど。

いつになったら直るのか、見当がつかないのは確かだ。



「申し訳ありません、お姉さま」



黙っていたら、ぽつりとナタルが呟いた。

ムウは首をかしげ、俯いているナタルを横目で見る。



「それが、ナタルの言いたいこと?」

「いいえ。そうではなくて。

 なんだか、色々と気を使わせてしまったようですので」

「私じゃなくて、あの二人にね。

 でも心配要らないから。

 ちゃんと伝わってると思うし」



あの二人のことなら、心配要らないと思う。

明日になって「ありがとう」などと言おうものならば、具合でも悪いのかとおかしな心配をされるか。

「何のこと?」と首を傾げられるに違いない。



「で?ナタルさんの不機嫌の原因は、私?

 それとも、このプレゼント?」

「どちらもです。いえ、しかし、直接的な因果関係があるわけでは」



どちらもか。

ナタルの肩から手を離して、前を向く。

テーブルの上には、依然としてムウ宛のプレゼントが鎮座していた。



「今日は、お姉さまの誕生日です」

「そうだね」

「だから・・・・・。だから、プレゼントを・・・・・」

「えっ」



驚いて、視線をナタルに向ければ。

ナタルはさらに俯いていて、耳を真っ赤に染め上げていた。

たぶん顔も赤いはずだが、ムウからはそれは見えない。



「渡したいのに、渡せなくて。

 私はお姉さまの妹なのに」

「そっか」

「重ね重ね、申し訳ありません」

「馬鹿ね、ナタルは。

 おめでとうって言ってくれればいいのに」



ムウの、一番欲しいもの。

ナタルから贈られて嬉しいもの。

それはたった一つで、その他のものは全部それに付随するものでしかない。

貰えば勿論嬉しいに違いないけれど。

ナタルが微笑んで、寿いでくれればそれだけで。

それだけで、胸が満ちていくように思えた。

顔を上げたナタルが、ムウを見る。

視線が合って、ほんの少し口元を緩めて。



「お誕生日、おめでとうございます」

「ん、ありがとう」











誕生日、おめでとう。

あなたと出逢えた偶然に感謝の口づけを。













あとがき



フラガの兄さん。お誕生日おめでとう。

今回も大遅刻決定で、しかもリリアンSEEDでお届けの、誕生日記念SS。

基本的な情報が抜け落ちているざる頭ですので。

その辺はご容赦を願いたく存じますです・・・・・(平伏)





ショパンを聞きながら書くこととなったこのSS。

そのせいか、ほんのり切なく甘めです。

リリアンじゃなくて、普通に祝えよというツッコミが彼方から聞こえるような気もしますが。

その辺は全力全速をもって回避ということで。

一つ、よろしく。

しかしながら。

リリアンは、楽しい。いつもながら、すごくいい。

最近こちらには手を出してませんでしたが。

ぼちぼち、別館にも手を加えていきたいなと思ったり思わなかったり(どっちだ)





何はともあれ。

フラガさん、お誕生日おめでとう!

祝うことに意義があるんだ。きっとそうだ。





2004/12/16 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | SS
由乃ん祭り・続編
今日も今日とて、由乃んを。

結構吐き出したせいか、ちょっと停滞気味です。

もうすぐ新刊も出ることだし。

盛り上がっていきたい・・・とは思ってます。はい。

半分以上が本編という事で。

進展はあるのでしょうかね(ドキドキ)







雪だるま  令由乃SS  ほのぼの





このSSに限り、フリー配布といたします。

お持ち帰りの際に、コメント等でお声がけ頂けると嬉しいです。

期間は今月いっぱい。




   ― 雪だるま ―







「ちょっと、令ちゃん」

「何、由乃?」



暖かい部屋の中。

コタツに入って編み物をしている令ちゃんは、顔もあげずに返事をした。



「これ」



由乃は日記帳をテーブルの上に広げて見せた。

令ちゃんが毎日のようにつけている日記。

令ちゃんは不思議そうな顔で、その広げられたページを見る。



「ああ。それね。

 昨日、由乃と雪合戦した時のことを書いたのよ」

「見れば分かるわよ」



令ちゃんたら、へらりと笑って。

嬉しそうに、得意げに、由乃の顔を見る。

もう。ボール拾ってきて、飼い主に褒めてもらいたくて仕方ない犬じゃないんだから。



「とにかく、この日記なのよ」











☆月□日 くもり



昨日から降り続いていた雪が積もっていた。

由乃と二人で外に飛び出して、雪合戦をする。

由乃ははしゃいで雪玉を投げてきて。

気がついたら、全身雪まみれになっていた。

びしょ濡れになって、少し寒かったけれど、心はとても温かい。

          ・

          ・

          ・

          ・









「外に飛び出して行ったのは、令ちゃんじゃない。

 私はそれに引きずられていっただけ」



そうなのだ。

寒いからと自分の部屋で本を読んでいた由乃を、令ちゃんがしつこくしつこーく雪遊びに誘ったのだった。

新刊を買ったばかりで、そっちに集中していたかったのに。

それに、この間雪が降った時、外に足跡をつけに出た由乃を追いかけてきたのは誰だったか。

風邪引いたらどうするのとか、霜焼けができたらとか。

令ちゃんのお小言で、渋々由乃は家の中に戻ったというのに。

昨日は令ちゃんの方から誘いに来て。

大方、この間無理やり由乃を家の中に押し込んだことを、あれこれ悩んだ結果なのだろうけれど。



「でも、随分熱心に雪玉投げてたじゃないの」



「本当は楽しかったんでしょう」と笑う令ちゃん。

令ちゃんの幸せそうな顔を眺めていると、なんだか申し訳なくなってくる。

機嫌の悪かった由乃が、一所懸命雪玉を投げていた理由。

気づいてないんだ、令ちゃんは。



「まぁね」



呆れとも感心ともつかないもやもやした気持ちを、吐き出す。

由乃の溜息くらいじゃ、すっかり温まった令ちゃんの脳みそを冷ますことなんてできやしないけど。

まぁ、雪合戦自体は楽しかった。

だから、それはこの際脇に退けておこう。

「はしゃいだ」という表現が間違っているということも、一緒に。



「あのさ。気がついたら全身雪まみれってあるけど」



この文章だけ見ていると、まるで由乃の投げた雪のせいでそうなったみたいだ。

でもそうじゃない。

本当のことは、その時一緒にいた由乃がよく知っている。

真相はこうだ。

はしゃいで雪玉から逃げていた令ちゃんは、足を滑らせて、頭から雪に突っ込んだ。

稀にみる大雪でよかったと思う。

そうでなければ、令ちゃんは顔面強打で鼻の骨を折っていたかもしれない。

運動神経が良い割に反応が遅かったのは、脳みそが溶けていたせいだろうか。



「令ちゃん、自分で転んで全身雪まみれになったんでしょう。

 ちゃんと書いておいてよ」

「嫌よ。思いだすたび恥ずかしいんだからさ」

「令ちゃんが書かないんなら、私が補足しておいてあげる」



テーブルの上に転がっていた赤いペンを手に取る。

令ちゃんは物凄い勢いで、自分の日記帳をひったくった。

おお、流石。

抜群の反射神経だ。



「令ちゃん、どうせ書くなら、そのあとのことも書いたら?」



令ちゃんが雪でびしょ濡れになったあと。

塗れた服を令ちゃんが着替えに行っている間に、由乃は雪だるまを作っていた。

小さな雪だるまを二つ。

手のひらサイズよりは大きいけれど、両手で持ち上げられるくらいの大きさ。

そして、出来上がったそれを、令ちゃんの家と由乃の家の間に置いた。



「ああ。由乃だるまと令だるま?」

「そのネーミングはどうかと思うけど」



二つの雪だるまは、まだ溶けずに残ってるけど。

たぶん日が差したら、あっという間にいなくなってしまうだろう。

仲良く並んでいる雪だるまに、ちょっと恥ずかしくなるような名前をつけたのは令ちゃんだった。

由乃は立ち上がり、窓から庭を見下ろす。

雪だるまは、寄り添うようにして、まだそこに佇んでいた。









令ちゃんと由乃。

二人の名前を持つ雪だるまが溶けても。

人間の令ちゃんと由乃は、ずっと一緒。





2004/12/05 00:00 | Comments(2) | TrackBack() | SS
息抜き。
ちょっとだけ、息抜きです。

あ。由乃ん祭りの続きではないですし、これといって関連性もありません。


雨が降っていた。



昨日から続く長い雨。

朝の内は止んでいたが、どんよりとした怪しい雲行きはそのままで。

昼を過ぎて、また降りだしていた。



水音が、やまない。

今はどこも授業中、そしてこの雨のせいで、外を歩く人影は見当たらない。

私はこの温室で、いつかと同じように膝を抱えていた。

誰にも会えない。

誰にも会いたくない。

研究室に顔を出せばいるであろう学友たちにも。

そして、ここから見えるあの校舎のどこかで、教壇から響く声に耳を傾けているであろうあの子とも。

あの子はこの場所を知っているから、放課になる前にここを出なくては。

そんな事を考える余裕はあるのだ。

何もかもがどうでもよくなり、なすべきことにも手をつけずにいるような状態でも。

あの子を気遣うだけの理性は、まだ残っているのだ。

それを自嘲している自分と、安堵している自分と。

二人の私が、私を見ていた。

冷ややかな視線と、温い視線がせめぎ合って奔流を作り。

私はその中心で、ただ身を任せているだけだった。

流されていくわけではない。

私はどこへも行けないし、行きたいとも思っていないから。

膝を抱えて蹲り、自分が沈んでいくのを黙殺しているのだ。

ひたひたとせり上がってくる水面。

そのまま私を飲み込んで、消してくれたらいいのに。

半ば本気でそれを願いながら、私は静かに目を閉じた。

たゆとう水の流れが、聞こえる。



暗い水底で。

一筋の光も届かぬ場所で。

私は床をちょろちょろと滑る蟹。



しかし目を開ければ、そこにあるのは手入れの行き届いた花達。

温室にはいつも誰もいないのに。

何故か、か弱いはずの薔薇は美しかった。

すぐ傍にある、咲こうとしているつぼみを。

散らしてしまいたい衝動に駆られ、指を伸ばしたけれど。

一瞬誰かの顔がちらついて、私はその手を引っ込めた。

足元に転がっていた鞄を持ち上げる。

そして私は立ち上がり、雨の中を、傘もささずに走り出した。

折り畳み傘が、鞄の中にはあったけれど。

こんなままでは、バスにも乗れないことは分かっていたけれど。







道を走っていると、白いマリア像のある分かれ道まできた。

マリア像は雨に打たれ、けなげにもそこに佇んでいた。

白い滑らかな頬を、まるで涙がつたうように水滴が流れていく。

私はマリア像と向かい合っていた。

ずぶ濡れのまま、そうしていた。

遠くでチャイムの音がして、慌てて傘をさして歩き始めるまで。



2004/12/02 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | SS
遠い家灯り
令、由乃SS  ほのぼの



修学旅行から帰ってきて。

出迎えてくれた令ちゃんと。




  ―遠い家灯り―







バスに揺られて、うとうとしながらK駅に辿り着いた。

眠たい目を擦りながら、バスを降りる。

すると。



「由乃」



真っ先に飛び込んできた、背の高い人影。

たった一週間かそこらの間会わなかっただけなのに、とても懐かしい人。

その人は優しい顔で微笑み、由乃を出迎えてくれた。



「おかえり、由乃」

「ただいま」



帰国する前夜に電話したときに、来なくてもいいなんて口では言ったけれど。

やっぱり、どこかで期待をしていたようだ。

令ちゃんの顔を見たら、帰ってきたんだって、ようやく実感が沸いた。

見慣れた街並みを見るより、聞きなれた言葉の行き交う中を歩くより。

由乃にとっては、令ちゃんと会う方が効くらしい。



「ほら。荷物を受け取って。

 車で叔父さんが待ってるから」

「えぇ?お父さんも来たの?」

「こら。そんなこと言わないの。

 由乃のこと一番心配してたのは、叔父さんなんだから」



そうなのだ。

修学旅行に出かける前も、壮行会なんて開いてくれちゃって。

その主犯は、実は由乃のお父さんだったりする。

お父さんはその席で、お酒をつい飲みすぎて潰れたという失敗までやらかして。

大人たちと別行動で帰ってきた由乃を捕まえ、しばらくの間絡んでいたのだった。

「元気になってよかった」とか、「思い切り楽しんでこい」とか。

「でもあまり無理するんじゃないぞ」とか。

同じことを、涙ながらに延々と繰り返して、そのまま寝てしまったお父さん。

お母さんはそんなお父さんの面倒を、呆れながらも見ていた。

令ちゃんと同じく、過保護もいいところなのだ。

お父さんは。

剣道部に入ると言い出したときも、お父さんはなかなか納得しなかった。

お母さんが取り成してくれて、令ちゃんもいるからと渋々承知してくれたのだ。



「一人娘だからね。由乃のことが、目に入れても痛くないほど可愛いんだよ」

「それを言ったら、令ちゃんだって支倉家の一人娘じゃない」

「うん。だから、うちのお父さんもなんだかんだ、娘には甘いと思うわ」



令ちゃんはほんの少し困った顔で、笑った。

由乃が令ちゃんに我侭言った時の表情に、少し似ているかもしれない。



「さぁ、行こう。話は、家に着いてからでもできるでしょう」











車の中で、お父さんは終始ご機嫌だった。

由乃の顔を見るなり、「お帰り」と満面の笑みを浮かべて。

どんなところで誰と何をしたのかを、ひたすら訊かれた。

ピサの斜塔に上った事だけは、お父さんには刺激が強そうなので黙っておいた。

何しろ、運転手だったわけだし。

動揺して手元が狂ったりしたら、大変なことになってしまう。



「それで。具合悪くなったりしなかったの?」



由乃の部屋で、荷解きをする傍ら、令ちゃんが言った。

荷解きといっても、大した作業はなくて。

中身を出して、洗濯物を洗濯機に放り込んだだけでおしまいだったが。



「別に」

「本当に?」

「イタリアに着いた日の夜に、ちょっと寝込んだだけ」

「全然『別に』じゃないじゃない。

 祐巳ちゃんと同室だったんでしょう?

 ちゃんとお礼は言ったの?」

「もう。そのくらい、言われなくてもできるわよ。

 子どもじゃあるまいし」



祐巳さんは、すごく心配してくれて。

でも、由乃の気持ちも分かってくれた。

申し訳なくて気弱になった由乃に、迷惑なんかじゃないって言ってくれた。

本当に、貴重な存在だと思う。



「祐巳さんには、感謝してるよ」

「そうね。意地っ張りで気が強い由乃の相手を、よくしてくれてるからね。

 私も、感謝してる」

「令ちゃん!」

「あはは。でも、本当だよ。

 由乃がなつくなんて、そんなにあることじゃないでしょう」



令ちゃんの言い方は面白くなかったけれど。

あまり反論もできないので、由乃は近くにあったクッションに八つ当たりをしておいた。

ぽすんと間の抜けた音を立て、クッションがへこむ。



「でもその日だけだったから。熱出したりしたの」

「うん。楽しめたみたいで、本当に良かった」

「楽しかったよ」

「知ってる。電話での由乃の声が、いつも元気いっぱいだったからね」



確かに、楽しかった。

祐巳さんや蔦子さん、真美さんと過ごした時間。

いつもと違う空間に戸惑いながらも、充実した毎日だった。

不満だったことなんて何一つなかったはずなのに。

今、こうして思い返すと、贅沢な考えがむくむくと大きくなる。



「でも、令ちゃんがいなかったから、ちょっと寂しかった」



そう言うと、令ちゃんは由乃の頭をそっと撫でてくれた。



「それは、お互い様」

「次に海外旅行するときは、令ちゃんと一緒がいい」

「いいよ。由乃の行きたいところなら、どこでも」











結局、その日の夜は、令ちゃんは由乃の部屋にお泊りした。

話しながら、いつの間にか由乃は眠ってしまったけど。

それはきっと、繋いでいてくれる令ちゃんの手が、温かかったから。

そういうことにしておく。















あとがき



帰国したその日の夜の、由乃んと令ちゃんでした。

この二人は、書いていて本当に楽しいです♪

この二人に限らず、姉妹は皆それぞれ楽しいのですけれどね。

由乃ちゃんの「令ちゃん」という呼び方が、可愛らしくて好きなのです。





さて。海外旅行といえば、時差ぼけ。

中国に行ったときは、三時間しか時差がないので、さほど苦労はしなかったのですが。

アメリカのときは、三日くらい引きずりましたね。

帰国したその日、夕飯はお寿司だったんですけど(笑)

夕飯が終わってごろごろしながらテレビを見ているうちに、気がついたら寝てました。

確か九時には寝ていたような気が。

それで、朝早くに目が覚めて。

それから二日間くらい、九時前に寝て六時前に起きるというおかしな生活してました。

昼寝しちゃったりもしてましたけどね・・・。

そんなわけで、当然学校もお休み。

よく寝て、精力的にお土産ばらまきに出かけて、また寝て(笑)





2004/11/24 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | SS

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