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2024/05/15 00:32 |
息抜き。
ちょっとだけ、息抜きです。

あ。由乃ん祭りの続きではないですし、これといって関連性もありません。


雨が降っていた。



昨日から続く長い雨。

朝の内は止んでいたが、どんよりとした怪しい雲行きはそのままで。

昼を過ぎて、また降りだしていた。



水音が、やまない。

今はどこも授業中、そしてこの雨のせいで、外を歩く人影は見当たらない。

私はこの温室で、いつかと同じように膝を抱えていた。

誰にも会えない。

誰にも会いたくない。

研究室に顔を出せばいるであろう学友たちにも。

そして、ここから見えるあの校舎のどこかで、教壇から響く声に耳を傾けているであろうあの子とも。

あの子はこの場所を知っているから、放課になる前にここを出なくては。

そんな事を考える余裕はあるのだ。

何もかもがどうでもよくなり、なすべきことにも手をつけずにいるような状態でも。

あの子を気遣うだけの理性は、まだ残っているのだ。

それを自嘲している自分と、安堵している自分と。

二人の私が、私を見ていた。

冷ややかな視線と、温い視線がせめぎ合って奔流を作り。

私はその中心で、ただ身を任せているだけだった。

流されていくわけではない。

私はどこへも行けないし、行きたいとも思っていないから。

膝を抱えて蹲り、自分が沈んでいくのを黙殺しているのだ。

ひたひたとせり上がってくる水面。

そのまま私を飲み込んで、消してくれたらいいのに。

半ば本気でそれを願いながら、私は静かに目を閉じた。

たゆとう水の流れが、聞こえる。



暗い水底で。

一筋の光も届かぬ場所で。

私は床をちょろちょろと滑る蟹。



しかし目を開ければ、そこにあるのは手入れの行き届いた花達。

温室にはいつも誰もいないのに。

何故か、か弱いはずの薔薇は美しかった。

すぐ傍にある、咲こうとしているつぼみを。

散らしてしまいたい衝動に駆られ、指を伸ばしたけれど。

一瞬誰かの顔がちらついて、私はその手を引っ込めた。

足元に転がっていた鞄を持ち上げる。

そして私は立ち上がり、雨の中を、傘もささずに走り出した。

折り畳み傘が、鞄の中にはあったけれど。

こんなままでは、バスにも乗れないことは分かっていたけれど。







道を走っていると、白いマリア像のある分かれ道まできた。

マリア像は雨に打たれ、けなげにもそこに佇んでいた。

白い滑らかな頬を、まるで涙がつたうように水滴が流れていく。

私はマリア像と向かい合っていた。

ずぶ濡れのまま、そうしていた。

遠くでチャイムの音がして、慌てて傘をさして歩き始めるまで。


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2004/12/02 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | SS

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